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千葉青年司法書士協議会

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労働トラブル

このQ&Aは,労働契約法や労働基準法などの労働法が適用になる「労働者」を前提としています。
「取締役」の方や「個人事業主」の方,「請負契約」を締結して働いている方などは原則として「労働者」に該当しませんが,他人の指揮命令に従って労働に従事している場合など,例外的に労働法が適用になることもありますので,ご注意ください(当協議会では不定期に電話相談会を開催しています)。

Q1  自分が「労働者」かどうかよく分からないのですが。

労働者とは,「使用者に使用されて労働し,賃金を支払われる者(労働契約法2条)」,「職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者(労働基準法9条)」をいい,使用従属関係の有無によって労働者か否かが判断されます。
といっても働き方は千差万別ですから,結局は個別具体的なケースごとに判断されることになります。

労働者性を肯定した例
新宿労基署長(映画撮影技師)事件(東京高裁平成14.7.11)(裁判所サイト)
関西医科大学研修医事件(最二判平成17.6.3)(裁判所サイト)
労働者性を否定した例
横浜南労基署長(旭紙業)事件(最一判平成8.11.28)(裁判所サイト)
藤沢労基署長(工務店大工)事件(最一判平成19.6.28)(裁判所サイト)

Q2  未払賃金を請求したいのですが

「賃金」は労働者にとって唯一の収入といってよい大事なものですのでその支払いが確保されるようになっています。

年14.6%の遅延利息
賃金の支払いが給料日に遅れた場合,使用者は,賃金に5%ないし6%の利息を付して労働者に支払わなければなりませんが,退職した労働者に対しては未払の賃金について年14.6%の利息を付して支払わなければなりません(賃金の支払の確保等に関する法律6条)。未払のときのペナルティーをきつくして支払いを間接的に強制しています。
労働基準法違反に基づく労働基準監督署への申告
賃金の支払いは使用者の義務ですので(労働基準法24条),使用者がこの義務に違反した場合,労働者は労働基準監督署へ申告することができます(同法104条)。使用者に支払能力がある場合は有効な手段です。
未払賃金の立替払制度
倒産(事実上の倒産含む)により賃金が支払われなかった労働者に対して,未払賃金の一定範囲を政府が使用者に代わって支払う制度です(賃金の支払の確保等に関する法律7条)。詳しくは独立行政法人労働者健康福祉機構のサイトでご確認下さい。
会社財産の差押え
未払賃金については先取特権(さきどりとっけん)という権利に基づいて差押えが可能です(民法306条,308条)。「担保権の存在を証する書面」を揃えて裁判所に差押えの申立てをすることができます(民事執行法193条等)。
実際に差押えが認められるかどうかはあくまでも裁判所の判断となること,会社に財産がなければ実効性に欠けることに注意が必要です。

Q3  未払残業代を請求したら「あなたは管理監督者だから」という理由で拒否されました

労働者は,原則として,週40時間一日8時間を超えて労働させられることはありません(法定労働時間,労働基準法32条)が,これには多くの例外があります。「監督もしくは管理の地位にある者」については法定労働時間のルールが適用されないというのもこの例外のひとつです(労働基準法41条2号)。
当然のことながら「管理監督者」にあたるかどうかは使用者が決める事柄ではなく,実態から客観的に判断されます。厚生労働省のサイトに詳しいので(管理監督者の範囲の適正化)ご確認ください。

なお,仮に「管理監督者」に該当する場合でも深夜割増賃金に関する規定は適用されます(最二判平成21年12月18日)

管理監督者性を否定した例
静岡銀行事件(静岡地裁昭和53.3.28)(裁判所サイト)
株式会社ほるぷ事件(東京地裁平成9.8.1)(裁判所サイト)
育英舎事件(札幌地裁平成14.4.18)(裁判所サイト)
日本マクドナルド事件(東京地裁平成20.1.28)(裁判所サイト)
東和システム割増賃金請求事件(東京地裁平成21.3.9)(裁判所サイト)
学樹社割増賃金請求事件(横浜地裁平成21.7.23)(裁判所サイト)
九九プラス割増賃金請求事件(東京地裁立川支部平成23.5.31)(裁判所サイト)

Q4  未払残業代を請求するためにどのような書類が必要でしょうか

残業したことの証明は,労働者がするのが原則です。しかしながら,タイムカードの打刻方法や労働時間の自己申告制などを不適切に運用し,使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるのが現状です。

労働基準法の規定(労働時間,休日,深夜業等)から,労働時間を把握することは使用者の責務であることは明らかですが,使用者がその責務を充分果たさず,その結果,労働時間の証明ができずに労働者が損をするような結果は妥当ではありません。使用者が有効な反証ができなければ,個人的な日記や手帳のようなものでも労働時間の証明になることも考えられます。

全く書面が存在しない場合は,使用者に対して労働時間の記録に関する書類(労働基準法109条で3年間保存が義務づけられています)の開示を求めるなど使用者と交渉する際の経緯を詳細に記録し,証拠作りをすることも検討してください。

厚生労働省において基準が定められていますのでご確認ください。
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準(平成13年4月)
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」の策定について

Q5  就業規則が不利益に変更されて一方的に賃金が減額されたのですが

労働条件は使用者と労働者の「契約」により決定されますので,就業規則は一方的に変更できないのが原則ですが,変更後の就業規則を労働者に周知し,かつ変更後の就業規則が
①労働者の不利益の程度
②労働条件の変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況
⑤その他の就業規則の変更に係る事情
に照らして合理的なものであるときは,労働者は変更後の就業規則に拘束されます(労働契約法9条,10条)。
なお就業規則を変更する際,使用者は「労働者の過半数を代表する者」の意見を聴かなければなりません(労働基準法90条)。

就業規則の変更を肯定した例
秋北バス事件(最大判昭和43.12.25)(裁判所サイト)
タケダシステム事件(最二判昭和58.11.25)(裁判所サイト)
→差し戻し審(東京高裁昭和62年2月26日)(裁判所サイト)
大曲市農協協同組合事件(最三判昭和63.2.16)(裁判所サイト)
第一小型ハイヤー事件(最二判平成4.7.13)(裁判所サイト)
名古屋学院事件(名古屋高裁平成7.7.19)(裁判所サイト)
第四銀行事件(最二判平成9.2.28)(裁判所サイト)
羽後銀行(北都銀行)事件(最三判平成12.9.12)(裁判所サイト)
函館信用金庫事件(最二判平成12.9.22)(裁判所サイト)
九州運送事件(大分地裁平成13.10.1)(裁判所サイト)
県南交通事件(東京高裁平成15.2.6)(裁判所サイト)
ノイズ研究所事件(東京高裁平18.6.22)(裁判所サイト)
就業規則の変更を否定した例
御国ハイヤー事件(最二判昭和58.7.15)(裁判所サイト)
朝日火災海上保険事件(最三判平成8.3.26)(裁判所サイト)
アーク証券事件(東京地裁平成12.1.31)(裁判所サイト)
みちのく銀行事件(最一判平成12.9.7)(裁判所サイト)
大阪厚生信用金庫事件(大阪地裁平成12.11.29)(裁判所サイト)
八王子信用金庫事件(東京高裁平成13.12.11)(裁判所サイト)

Q6  解雇を言い渡されてしまいました。

期間の定めのない労働契約の場合,使用者はいつでも労働者を解雇(解約申し入れ)することができ,反対に労働者はいつでも退職(解約申し入れ)できるとするのが民法の考え方ですが(民法627条),「解雇」は労働者にとって重大な影響を与えますので,これを使用者の自由に任せることはできません。「客観的に合理的な理由」を欠き「社会通念上相当」と認められない場合,解雇は無効となります(労働契約法16条)。
なお有効な解雇の場合でも30日前に予告をしなければなりません(労働基準法20条)。

【解雇有効と判断された例】
労働者側の事由による解雇
フォード自動車事件(東京高裁昭和59.3.30)(裁判所サイト)
北海道龍谷学園事件(札幌高裁平成11.7.9)(裁判所サイト)
経営上の理由による解雇(整理解雇)
東洋酸素事件(東京高裁昭和54.10.29)(裁判所サイト)
スカンジナビア航空事件(東京地裁平成7.4.13)(裁判所サイト)
厚木プラスチック事件(前橋地裁平成14.3.1)(裁判所サイト)
【解雇無効と判断された例】
労働者側の事由による解雇
高知放送事件(最二判昭和52.1.31)(裁判所サイト)
セガ・エンタープライゼズ事件(東京地裁平成11.10.15)(裁判所サイト)
全日空事件(大阪高裁平成13.3.14)(裁判所サイト)
経営上の理由による解雇(整理解雇)
高田製鋼所事件(大阪高裁昭和57.9.30)(裁判所サイト)
あさひ保育園事件(最一判昭和58.10.27)(裁判所サイト)
山田紡績事件(名古屋高裁平成18.1.17)(裁判所サイト)

Q7  期間の定めのある労働契約(有期労働契約)をしています。期間が満了したら更新されないのでしょうか。

有期労働契約が反復して更新されていて,雇止め(更新拒否)が期間の定めのない労働者に対する解雇と社会通念上同視できる場合,または有期労働契約が更新されると期待することについて合理的理由が認められる場合,雇止めが客観的に合理的理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,有期労働契約が更新されたとみなされます(労働契約法18条)。
考え方としては従来の裁判例が参考になります。

【更新の手続が形式的なものに過ぎず,期間の定めが形骸化している場合】
→期間の定めのない労働者と同様の基準で判断されるべき(雇止めを無効とした例)
東芝柳町工場事件(最一判昭和49年7月22日)(裁判所サイト)
カンタス航空事件(東京高裁平成13年6月27日)(裁判所サイト)
【更新は重ねているが,更新手続を厳格に行ってきている場合】
→解雇に関する法理が類推されるものの,期間の定めのない労働者を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があると判断(雇止めを有効とした例)
旭硝子事件(東京高裁昭和58年9月20日)(裁判所サイト)
日立メディコ事件(最一判昭和61年12月4日)(裁判所サイト)

厚生労働省から有期契約労働者の雇用管理の改善に関するガイドラインが出されています。
有期契約労働者の雇用管理の改善に向けて(厚生労働省サイト)

Q8  労働問題に関する具体的相談先について

各種相談先一覧(千葉労働局サイト)
千葉県労働相談センター(千葉県サイト)
日本労働組合総連合会千葉県連合会(連合千葉)
千葉県労働組合連合会(千葉労連)

Q9  裁判例・相談事例サイト

裁判例,相談事例を集めたサイトがあります。参考にしてください。
独立行政法人労働政策研究・研修機構「個別労働関係紛争判例集」
独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働問題Q&A」
社団法人全国労働基準関係団体連合会「労働基準関係判例検索」
一般財団法人女性労働協会「女性就業支援センター」